読書はしばしば「教養を深めるための行為」として語られる。しかし、それは裏を返せば、「すぐに役に立たないもの」として敬遠される理由にもなっているのではないだろうか。
だが、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェット、ジェフ・ベゾスといった世界的な成功者たちは、読書を単なる知識の摂取ではなく、現実に対処するための知恵を生み出す手段として活用している。
彼らの読書には、注目すべき4つの秘訣がある。

1. 「思索のための空白」を意図的につくる
読書における最大の敵は、注意散漫だ。目を走らせていても、頭の中で仕事や日常の雑事が浮かび、内容が頭に残っていなかった、そんな経験は誰しもあるだろう。
成功者たちはこの「集中の障害」を意図的に排除し、読書と思考に没入できる環境をつくり出している。
ゲイツは年に2回、自らを隔離して読書と熟考に専念する「Think Week」を設けている。これはマイクロソフトの多忙な時期も欠かさず続け、現在もなお、世界の課題解決に挑む活動の基盤になっているという。最近のブログで、Think Week中の自分について、交流するのは食事を運んで来てくれる人だけで、メールさえチェックしなかったと明かしている。
ベゾスもまた、Amazonの経営の中で「思索と読書」の期間を意図的に確保してきた。2002年、この期間明けに発表された「ピザ2枚チームルール」は、6〜8人の小規模チームが自律的に動く組織文化を目指したもので、今も伝説的に語られている。今日のAmazonのスピードと柔軟性を体現している。
バフェットも例外ではない。オフィスのドアを閉じ、1日5〜6時間を新聞や書籍の精読にあてるのが日課だ。彼が一日に500〜600ページを読み込むのは、「思考の時間」を確保し、投資判断力を磨くためであろう。
2. 読書は「受け取る」だけではなく「考える」行為
「この世界って、教えてもらってスイッチを入れればいいて感じだよね。でも、それが自分にとって何を意味するのか、考える力を持たなきゃ」(ジェフ・ベゾス 果てなき野望 ブラッド・ストーン著)
これはベゾスがまだ10代の頃に語った言葉だ。
読書は知識を受け取る行為であると同時に、それを自分の現実にどう結びつけるかを考える行為でもある。
バフェットは、座って考えることが楽しくて好きだと語り、ゲイツは前述のThink Weekについて、「未来について読み、考え、書き続けていた」と振り返っている。
ドイツの哲学者ショーペンハウアーは、読書を「他人の考えた過程を反復するにすぎない」と批判したうえで、「熟慮を重ねることによってのみ、読まれたものは真に読者のものとなる」と説いた。
つまり、読むだけで満足するのではなく、「自分にとって何を意味するのか」を咀嚼し、自らの思考として再構築することが、知識を知恵へと転換する鍵なのだ。
3. 思考を“外部化”し、知識を再編集する

どれだけ本を読んでも、時間が経てば内容の多くは忘れてしまう。だからこそ、思考や発見を外部に書き出すことが重要になる。
几帳面な性格で知られるベゾスは、常にメモ帳を持ち歩き、思いついたアイデアを書き留める習慣を持っている。『How Buildings Learn』の著者スチュアート・ブランドは、ベゾスが自分の本をびっしりと書き込みで埋め尽くしていたことに驚かされたという。
メモの効用をさらに高める方法として注目されるのが、社会学者ニクラス・ルーマンが実践した「カード式ノート」だ。これは本や論文から得た知識や考えを、自分の言葉に置き換えて短く記し、インデックスカードとして保存していくというもの。
上から書き進めるノートとは違い、カード同士を自在に関連づけられるため、アイデアが新しい形で結びつき、脳の外部記憶として機能する。
自分の言葉で書き出すことは、理解の深さを測る最も簡単なテストでもある。説明できるということは、思考が自分のものになった証拠だからだ。
4. 読んだ知を「共有」して鍛える
書き出すことに加えて、他者と共有し、議論することも理解を深める強力な手段となる。
ベゾスはAmazonで、幹部を集めた読書会を定期的に開催していたという。ドラッカーの『Effective Executive』やクリステンセンの『イノベーションのジレンマ』など、経営の本質を問う書籍を1日がかりで読み込み、議論する場を設けたのだ。
特に『イノベーションのジレンマ』は、巨大企業が破壊的技術への対応を誤る構造を明らかにし、AmazonがKindleの開発戦略に大きな影響を与えたとされる。
ゲイツは、ブログやRedditのコミュニティーを通じて推薦図書を共有し続けている。
知識は、他者と共有し、異なる視点にさらすことで磨かれる。議論は、思考を鍛える「知的トレーニング」でもあるのだ。
こうして見てくると、成功者たちの読書は単なる情報収集ではなく、
- 集中のための環境を整え
- 考える力を働かせて自分のものとし
- 外部化して知を再構成し
- 共有と対話を通じて磨き上げる
という、一連の知的プロセスとして機能していると言える。
読書は、知識をため込む行為ではなく、現実の知恵を生み出す知的プロセスである。
この視点に立ったとき、「本を読む」という営みが、新しい意味を帯びてくる。
<おすすめ図書>
『読書について 他二篇』 A. ショウペンハウエル (著), 斎藤 忍随 (翻訳) 岩波文庫
『バフェットのマネーマインド』ロバート・G・ハグストローム (著), 小野 一郎 (翻訳) ダイヤモンド社
バフェットの投資哲学の本質の解明を試みた本。一般的な投資手法の解説に陥らず、思想的背景や哲学、経済学とのつながりを論じており興味深い。
『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』ブラッド・ストーン (著), 滑川 海彦 (解説), 井口 耕二 (翻訳) 日経BP
ベゾスの半生とアマゾンの創業から約20年間を追ったバイオグラフィー。巻末でベゾス、アマゾン幹部の間で広く読まれてきた本が紹介される。ベゾスは「小説」の方が役に立つと考えているという。
Source Code: My Beginnings (英語) ビル・ゲイツ著
ゲイツ書き下ろしの自伝で、少年時代からマイクロソフト創業までの軌跡が描かれる。豊富なエピソードに加え、自立心や思考力、集中力がいかに養われたか興味深い。
How to Take Smart Notes (英語) Sönke Ahrens(ゾンケ・アーレンス)著
社会学者ニクラス・ルーマンのZettelkastenと呼ばれる「カード式ノート」システムを解説した実践書。論分を書く学生やノンフィクション作家を主な対象としているが、読書を現実に役立てる上で、社会人全般に参考になる内容。必要なものがペンとインデックスカードだけというお手軽感も嬉しい。
How to Read a Book(英語) Mortimer J. Adler (著)
初版は1940年。1972年に改稿を加え現在まで読み継がれている本の読み方を説いたベストセラー。読書法にInspectional Reading、Analytical Readingといったレベルを設け、内容を十分に理解し、自分の血肉とする方法を解説する。How to Take Smart Notesと重なる部分も多い。
<お役立ちツール>
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